野老(ところ)と自然薯

▲葉の形状とその葉が対生(写真左側:自然薯)か互生(右側:トコロ)か見分ける。

 農業新聞の連載コーナー「やまけんの舌好調」にトコロ(野老)を食べた話が書いてあった。
 珍品・美味だと嗜好家の多い天然山芋の自然薯ですが、それに似た山芋の〝トコロ〟は苦くて食えない。イノシシも嫌がる山芋だと言われ、「有毒なので食べるべからず」とした通説が一般的です。中にはこの〝トコロ〟の根を細かく砕いて川に流し、魚を麻痺させて捕えるという漁法もあるとか・・・。果たして、有毒といわれるトコロ(野老)を食しようとにレシピなるものなどがあるかどうか気になって調べてみた。

 エビを〝海老〟と書くのことに何の疑念もなかった。野老と書いてトコロと読むのは非常に奇異だ。エビもトコロも長いヒゲがあって、それを老人に見立てた、との故らしい。海老に比べ野老は馴染みが少ない。漢字変換でもすぐに顔を出さない。
 地方によって、古来からこの野老のヒゲ根を正月の床に飾って長寿を願う風習があることから「野老飾る」は季語にもなっているらしい。現代でこの言葉が一般的によく使われていないのは〝海老〟は美味くてどんどん食べられたが、危険な〝野老〟は不味くて食卓にのることがなかったからだろう。

 有毒とも言われるトコロですが(まあ実際は強力な苦み、アクでお腹をこわすという程度のものだろうと想像します)、この不味い(正確には苦い)トコロを食べる地方があるとのこと。前述のやまけん(山本謙治)さんが食したのは岩手県で、東北地方にはトコロをじっくり灰汁で煮てから水にさらし、調理したものを愛食する方が多いらしい。苦みを楽しむ、味わう、やまけんさんも「美味しくない美味しさ」がとても大切だと言っておられます。
 この「美味しくない美味しさ」の重要性が何なのかは次回(食育編)にて触れるとして、「野老ばなし」あと二つだけ。

 此山のかなしさ告よ野老掘  芭蕉
(「真蹟懐紙」には「山寺の悲しさ告げよ野老掘り」とある)
俳句の才がないので上手に味わうことができませんが、芭蕉が句に使うぐらいですから「トコロ掘り」はごく日常的な風景だったのでしょう。

 在原業平が野老(ところ)が多く生えているのを見て「この地は野老(ところ)の沢か?」と言った事が由来で「所沢」という地名が残ったという話はわかりやすい。

 ★写真の左はヤマノイモ(自然生・自然薯)の写真です。
 簡単な見分け方→自然薯は葉が対生で、トコロ(野老)の類は互生です。
分類学上、日本には18種のヤマノイモ属の植物があってトコロと名がつく種もいくつかありますが、オニドコロ(学名;tokoro)がヤマノイモ種(学名:japonica 通称:自然生・自然薯)に葉の形が一番似ています。気をつけて観察して下さい。

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