・シビックプライドとしての背山(由布岳)

やまな大分県・やまなみハイウェイから由布岳(1,583m)を望む
 大分県・やまなみハイウェイから由布岳(1,583m)を望む 

宇佐神宮〜志高湖〜由布岳

 九州の山を歩こうと思いついて、いろいろと山名が浮かんだが、やはり「由布岳」が最後に残ってしまう。「由布院温泉」とセットで頭にこびりついていたのは、やはり、NHK連ドラ「風のハルカ」の影響が大だと思う。山を守り神として住人たちは山を見上げ、山は母親のような慈愛でもって麓の人々を見つめている。そんな里と背山の際立った関係がすっぽりと印象に焼き付いていたのだろう。シビックプライドではないが、背後に聳える山を大いに誇ることができる、そういう意識が共有できる地域は本当に幸せという思いがあります。山を祀る、山の神を奉じるなど「山」への思いは、太古の昔より〝山と人〟との関係で繋がれてきた日本風土・文化の大きな柱の一つとも言えるものです。いや日本に限らず世界中どこであっても、山と人間、自然とのかかわりの根元にあるように思います。
 そんな山から恵まれている潤いを、日々の暮らしの中でいっぱいに享受している人々がくらす里を訪ねてみたい。由布岳とそれを御神体として創建された由布院の宇奈岐日女神社にはぜひ参拝してみたい。と、まずは由布岳を横目にスルーして、やまなみハイウェイで湯布院に直行した訳ですが、すんなりとは町へと入らせてもらえませんでした。考えればGWの連休中、おまけに外国人観光客も急増中の昨今、車と人ごみにあふれ、車を停めるところさえ見つかりません。街ナカから逃れ、コンビニで今晩のキャンプ夕飯と朝食及び山上での昼飯の3食分の食料を買い出して早々に退散することになりました。この地の魅力をじっくり味わうには、もっとオフシーズンを狙うべきでした。

左:宇佐神宮 右:由布院
左:宇佐神宮 右:由布院

興味をそそる〝死拍手説〟

 話が前後しますが、途中10号線を南下中に「宇佐神宮」を発見、じっくりと見学・参拝させていただきました。全国4万社余りの八幡さんの総本宮とあって、思っていた以上に品格ある大きな宮でした。この宮も昨年訪れた出雲大社(島根)と同じく参拝方式が「二礼四拍手」でした。例の大社の「死拍手説」と何やら深いつながりでもあれば面白い展開だなと、帰宅後、少しワクワクしながら調べてみた。新潟県の弥彦神社も、同じく「四拍手」だそうだ。宇佐〜出雲〜弥彦、これらを結ぶラインは「八拍手」の伊勢神宮(大和)を守る非大和系の神社による結界だ!という説もあって、これまた面白い。「拍手」一つでいくらでもお話を掘り下げ、拡げられる歴史好きの面々には敬服せざるを得ないです。(謎多多き神々の出雲国を参照ください)

 買出しを終えて混雑の由布院を脱出、明朝に登る由布岳を、またも横目にスルーしキャンプができる志高湖があるというので別府方面へ戻る。湖畔で落日を楽しみながらと目論んだが、ここも人気スポットのようで案の定、湖畔は芋の子を洗う如きのオートキャンパー(数100台)で溢れていました。仕方なく湖畔から離れて山裾の斜面にテントを張ることに。

由布岳山頂から湯布院へ通じるやまなみハイウェイを望む
 由布岳・東峰山頂から湯布院へ通じるやまなみハイウェイを望む

一味ちがう九州の山々

 翌早朝、登山口から見上げる「由布岳(豊後富士)」の威容に気合いを入れてもらって遊歩開始。噴火当時をリアルに想像させる麓のどでかい噴石群には目を見張る。まさに噴石ミュージアムといった感が伝わってきて、この何か生々しい感じが気持ちを高ぶらせます。プレート圧縮型の高い山々が連なった中央アルプスとはまた一味違った山容がある。噴火型による山岳が多い九州の山は、平地を突き破って、マグマを盛り上げたような山容(富士山のような)で独立性が高い。 この先には九重連山や阿蘇山などを擁する「火の国」が待ち構えているのですから、個性たっぷりの〝火の山〟という趣きも当然です。
 1時間余で標高1000mを越えたか、樹林帯を抜け森林限界のような感じに。高木が消えて足下に由布院の眺望がパーンと広がり、東の遠くには別府の湯けむり、西には九重連峰、さらに阿蘇までが望める。昨日、別府側から見た大平山や鶴見岳も、多くは草原の山肌で樹林が少なかった。本州ではあまり見慣れない山肌の風景であった。火山地質もあるが、山焼きをしながら牧草地として管理しているらしい。
 由布岳も上半分には樹林が無く、眺望は申し分ない。夏場はさぞ暑いだろうけど。多くのハーカーに追い抜かれながら黙々と喘いで、10時頃マタエと呼ばれる西峰と東峰の鞍部に到着。険しい鎖場がある西峰をパスして、東峰へアタック開始。それを娘にライブで写メ実況するが全く返信がない。昨夜のキャンプ場ではガンガン返信がきたが・・・(朝寝中だったようだ)
 山頂(東峰)周辺は登山客で鈴なり、登山道で行き交う人もそうだが、何とまあ〜ウェアやグッズの華やかなこと。我が身を振り返ると古〜いリュックとシューズ、Gパン・Gシャツに釣用ベストの裏山散歩スタイルで肩身が狭い。日頃は、一人遊歩でしかもハイカーと出会うことの少ない低山専門なので、流行りモノに触発されるチャンスがなかったのですが・・・。やっぱり機能性云々は別にしても、オシャレには気を使わないとそろそろ徘徊老人と勘違いされそうだ。(まあ、それで間違いはないのだが)
 定番の下山後の温泉、別府であちこち探したがあまりの混雑で断念。
 門司、下関、宇部といろいろ探して走ってみたものの、結局は自宅近くのスーパー銭湯になっちゃいました。
ということで、まだ何とか山歩きしておりますのでご報告まで。

左:由布岳マタエから西峰を望む、右:志高湖のソロキャンプ
左:由布岳マタエから西峰を望む、右:志高湖のソロキャンプ

※この記事は2018年5月8日に投稿したものを再収録しました。

■遊歩調査関連記事
 遊歩資料館アーカイブ(2010年収録)に目次があります。
   ■
  ■
  ■