野老(ところ)と自然薯

左はヤマノイモ(自然生・自然薯)右がオニドコロの蔓葉と

 農業新聞の連載コーナー「やまけんの舌好調」にトコロ(野老)を食べた話が書いてあった。自然薯に似たトコロは苦くて食えない。イノシシも嫌がる山芋と言われ、一般的には「有毒なので食べるべからず」と記された資料が多い。中にはこの芋の根を細かく砕いて川に流し、魚を麻痺させて捕えるという漁法もあるとか。
 果たして、有毒といわれるトコロ(野老)にレシピなるものなどがあるかどうか気になって調べてみた。

 〝エビ〟を海老と書くのことに何の躊躇はないが、野老と書いて〝トコロ〟と読むのは非常に奇異で困惑する。エビもトコロも長いヒゲがあって、それを老人に見立てた、との故らしい。海老に比べ野老は馴染みが少ない。漢字変換にも顔を出さない。
 地方によって、古来からヒゲ根を正月の床に飾って長寿を願う風習があって「野老飾る」は季語にもなっているとのことだ。現代では専門語のような扱いで一般的に使われなくなったのは、海老は美味くてどんどん食べ、野老は不味くて食卓から遠く離れていったからだろう。

 この有毒とも言われるトコロですが、(まあ実際は強力な苦み、アクでお腹をこわすという程度のものだろうと想像しますが)この不味い(正確には苦い)トコロを食べる地方がある。前述のやまけんさんが食したのは岩手県で、東北地方にはトコロをじっくり灰汁で煮て水にさらし調理したものを愛食する方が多いらしい。苦みを楽しむ、味わう、やまけんさんも「美味しくない美味しさ」がとても大切だと言っておられます。
 この「美味しくない美味しさ」の重要性が何なのかは次回(食育編)にて触れるとして、「野老ばなし」あと二つだけ。

 此山のかなしさ告よ野老掘  芭蕉
(「真蹟懐紙」には「山寺の悲しさ告げよ野老掘り」とある)

 俳句の才がないので上手に味わうことができませんが、芭蕉が句に使うぐらいですから「トコロ掘り」はごく日常的な風景だったのでしょう。

 在原業平が野老(ところ)が多く生えているのを見て「この地は野老(ところ)の沢か?」と言った事が由来で「所沢」という地名が残ったという話はわかりやすい。(所沢市情報サイトより

 ★写真の左はヤマノイモ(自然生・自然薯)の写真です。
 簡単な見分け方→自然薯は葉が対生で、トコロ(野老)の類は互生です。
分類学上、日本には18種のヤマノイモ属の植物があってトコロと名がつく種もいくつかありますが、オニドコロ(学名;tokoro)がヤマノイモ種(学名:japonica 通称:自然生・自然薯)に葉の形が一番似ています。気をつけて観察して下さい。

■人物歳時記 関連ログ(2021年追記)
小説「坊ちゃん」の正体・・・(弘中又一)
小説「吾輩は猫である」自然薯の値打ち(夏目漱石)
零余子蔓 滝のごとくにかかりけり(高浜虚子)
貴族・宮廷食「芋粥」って?(芥川龍之介)

■読本・文人たちに見る〝遊歩〟(2021年追記)
解くすべもない戸惑いを背負う行乞流転の歩き(種田山頭火)
何時までも歩いていたいよう!(中原中也)
世界と通じ合うための一歩一歩(アルチュール・ランボオ
バックパッカー芭蕉・おくのほそ道にみる〝遊歩〟(松尾芭蕉)

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