〈ライト編〉
日帰りハイキングに何を持っていくのか?
と、ググってみるとその装備品があれこれズラ〜と出てくる。ウェア、シャツ(長袖)、雨具、パンツ、防寒着.着替え、帽子、靴下、手袋、ザック、行動用具、ヘッドライト、登山シューズ、水筒、行動食、時計、地形図・資料コピー、ビニール袋、コンパス、ティッシュ、トイレットペーパー、タオル、計画書、非常用品(薬品)、スマホ・携帯、ホイッスル等など、慎重な方はまだ、あれこれと携帯品を紹介してくれます。そして、その一つ一つをとっても、機能性の違いや価格・グレードの違いなどがあり、いく先のコース状態や天候に合わせて考えだすと、これは大仕事になってきます。しかしまあ、この準備がワクワクして一番の楽しみだと言われる方も多い。確かに明日、歩いている自分を思い浮かべながら、これを着ようとか、これを持って行こうとかいう、前日の高揚感はたまらないものがあります。
ウォーキングの大きな枠づけ(プランニング)をするために〝設計図〟と称して、コリン・フレッチャーは、バックパッキング(BP)用具(市場状況から価格まで)、その重さの目安、歩ける距離、体調管理など〝家を背負って〟と題して「遊歩大全」に事細かく書き記しています。たいがいは1週間にわたるロングトレイルでの装備だし、特に用具に関しては時代の違いもあって、その細かな内容をそのまま紹介したとしても、現在の日本での裏山ハイクに必要なもののヒントになるかどうかわから無い。しかし、含蓄のあるコンセプトは大いに学べるところです。機能性が究極まで追及されたモノが多様にあふれている現代においてこそ、この古典的な本から学ぶことが多くあります。
フレッチャー自身が、〝装備をはじめ、歩き方とは、もともと主観的なものだ〟と断言しています。道具にしても自分の目で選択して、決定し、工夫したり使い込んでいくことに価値があると言っています。自分らしく歩くことを目指した人ですから、他人が作ったようなチェックノートには関心も興味もなかったようです。書き出しにはこうあります。
日帰りのウォーキング(ワンディ・ハイク)では、装備、テクニック両面とも、それほどの難問は登場してこない。必要と思ったものは全部ポケットに詰めこめばいいのだし、腰か肩に小さなポーチをつければ、その中にいろいろ詰められるから、いっそう便利になる。必要と思いながらも残していかなければならないものが出てきても、心配はいらない。なんといっても、その日のうちに家に帰りつけられるのだから。
ところが一晩といえども外で夜を過ごすとなると、快適に眠るためには何らかの〝家を背負って〟行かなければならなくなる。
何kgを担ぐのか?
今なら私でも(師匠のように)そうしています。散歩用の靴で、必要なものはポケットかポーチに詰め込んで、裏山をのぼることも多い。たまに夏場などにペットボトル2本で済むだろうという安易な思惑が外れ、途中で水分切れするようなミスがあるけど、たいがいはそんな感じで大きく困ることはない。しかし、歩き始めた頃は、たとえワンディ・ハイクであっても、何がどれだけ必要なのかがよく分からない。神経質になって、ガイド本を買って調べ、これもあれもと、それこそ〝家を背負う〟ような装備で日帰りハイクに出かけていた。その体験の積み重ねの中で、何が必要で、何が不必要なのかが分かってきます。
そして、一泊・二泊の山行になってくると、不必要なものは勿論ですが、必要なものでもとことん〝重さ〟を削るようになります。とにかく背中の家を軽くてコンパクトなものにしなくては、〝歩き〟の自由度が落ちてしまうのです。フレッチャーも〝重さ〟にはずいぶんと神経質です。
BP道具を仕入れる時に商品重量が明記されていない商品があると困るので、彼は手秤をもっていくのです。テントやシュラフなどの商品は重量表示をしているでしょうが、シャツやショーツには重さまで表示されていません。2社のショーツの重さを比べようと秤を出した時の店員のうろたえぶりも書いています。(そこまでやるのかい!)まあ、確かにg単位で削っていかないと、半kg・1kgと軽くしていけません。ついでに、フレッチャーはどれほどの重さの家を背負っていたのかといいますと、おおよそ体重の3分の1が楽しく歩ける重さの目安だといっています。グランドキャニオンなどの1週間ほどのロングトレイルで、出発時で30kg強(終盤には半分以下に減ってきます)とのこと(本人体重は88kg)。確かに食料や水分が減ってくるのをアテにして、私らも体力配分(ガマン)していましたね。それにしてもやはり出発時が最悪だとフレッチャーも嘆いています。
「初版時の1968年に、すでにBP用具の開発は混乱と興奮の状態だった」とも書かれているように、米国ではBP用具(日本では登山用具・アウトドア道具というのでしょう)の爆発的な商品開発が始まって、次から次へと新商品が生まれておりました。それ故に、製品の良し悪しを本に書いても意味がないと当時の著者も言っていますし、現代においては尚更です。日進月歩で軽くて機能性の高いものがドンドンと生まれてきます。いちいち、こんなモノが良いですよと紹介していても、とうてい追っつくものではありません。人それぞれに合ったものを、自分の好みで選んでハイキングに持っていただく他ありません。
と言いつつも本題です・・・。そうは言ってもこれだけは!というヤツをオススメしましょう。
オススメ その1.ライト
日帰りハイクですが、ハンドルフリーのヘッドランプが機能的ですが、ペン型でもアクセサリータイプでも、ライト系は何か一つは持っていきたいです。ワンディ・ハイクでの不測の事態はいくつか想定できますが、そのうち怪我・事故はさておいて、案外と日没などのサスペンデッドな状態までイメージする人は多くありません。たいがいプラン通り歩いていけば、夕方には麓に下っているでしょう。夏場なら、それからまだ2〜3時間は明るいはずです。滅多なことで暗くなって動けなくなるということはないでしょう。
しかし、実際のところ山中で明かりを失うということになれば、これは全く辛い状態なのです。一人きりであれば尚更、精神的にもタイトです。人は行く先が見えないことほど不安なものはありません。都会の夜道と違って山渓での夜は月が出ていないと漆黒です。(月があっても樹林の底まで届かない)日帰りハイクではそういう事態になったことはありませんが、一度、キャンプの合流に遅れ、ショートカットしようとヤブの急斜面を黄昏時に登ったことがあります。思ったほど時間が稼げず斜面の上部あたりでは、完全な闇に覆われておりました。その時、突然ヘッドランプが消えて明かりを失ったことがありました。その時は、もう泣きそうな気分になりました。すぐ脇にある崖に転落するのじゃないか、イノシシの巣に突入するのじゃないか、さすがに手探りで進むのは諦めました。予備のペン型ライトを探し出して、何とか尾根道までを辿ることができました。か細い光源でしたが何とも勇気をいただけるありがたいものでした。山中泊に慣れてくると、光源も電気系の光源が最低3つ、ロウソクのミニキャンドル、ガスのランタンとしっかり確保ができるようになりました。
フレッチャーの頃から考えると、数多くの用具が軽量化・機能化で夢のような進化を遂げています。冬山をあまり知らない私には、極寒期のウェアやシュラフの猛烈な進化の歴史をうまく語れませんが、低山派として、ここ数十年に革命的な進化で恩恵を強く感じるモノと言えば、LEDがもたらしたライト系のグッズだと断言できます。とにかく明るく、耐久性があり、コンパクトで電池の持ちが良い。電池の数・バッテリー持続時間などに気を使うこともなくなり、ほとんど負荷のかからない装備となりました。
ということで日帰りハイキングでも不測の暗闇に襲われることがあるかもしれせん。その時の不安を取りのぞいてくれる灯り・ライトを必携品にオススメいたします。日常生活で、もち歩いていても役に立つことが折々ありますので、その延長線上でよいと思いますので是非一つは持っておきましょう。
「スマホにもライトが付いているだろう」
(後述の)地図・ナビあたりでこのスマホの存在、圧倒的な機能性をもったグッズとしてこれは度々に登場してくるでしょう。時計や高度の計測器としても、写真やルートの記録、天候・気象情報を得るにもとても有効です。その他にも、目の前の山並みにかざすだけで、その画像に山名や標高が現れるアプリや夜には星座名も表示してくれるものもある。ヤブ蚊を撃退する周波数をだすアプリもあるし、こいつ一台でかなりのものが代用できるようです。フレッチャーは、同じ詩歌でも、家で読むのと違って、ウィルダネスの夜空の下で読むのを楽しみにしていた。そんな詩集や小説、資料本や植物・昆虫図鑑も持っていくならば、〝歩き〟の味わいももっと深めてくれる、いわゆる〝精神用品〟と彼が呼んでいたものですが、やはりその重さに挫けて多くは割愛せざるを得ません。しかし、スマホがあれば何百・何千冊分の情報を詰め込んで持っていくことも苦もなく可能です。重量に換算すれは一体何kg、何十kgを代替してくれるのでしょう。当時ではまったく夢のような話なのです。
現代であればコリン・フレッチャーは、この千人力の小さな機器をどういう風に見て、どう扱うのでしょうか?気になるところです。便利すぎるスマホ(文明)は家に置いていくと言っていたかもしれません。が、おそらく彼のことです、バリバリと使い倒して、わがモノとしていたことは間違いないでしょう。が、「もし君にそんな体力があるなら・・・」「もし君に地形を読む想像力があるなら・・・」「君にそんな感性があるなば・・・」などと、必ずダメ出し条件を加えながら、その使い方を懇切に説明してくれるのでしょう。
ウィルダネスでは、まず野生の力が試されます。自分の体力を推し量る、地形を読む、天候を読むなどなど、生き物がもつ本来の力と経験を土台にして、行動が決まっていきます。そういった基礎的な積み重ねがないまま、デバイスの機能性を頼りに、自然のフィールドに立ち入ることは、逆にそれに振り回される危険性もあるでしょう。フレッチャーも最後に「もし、これがバッテリー切れになったり、紛失・壊れた時のことを想像しなさい」と言って、無条件にはオススメはしてくれないでしょう。あくまで二次的な必携品・予備グッズとして考えたいものです。
スマホがあれば歩けるが、なければ歩けない。そんな人に「遊歩のススメ」を読んでほしいと願っています。
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