〓 戸惑いの風景〔No.17〕

R誌が突っ走り始めた頃、足下では無数のズレが
蔓延りはじめていた。(2月5日/編集部撮影)

 印刷・製本を大阪なり明石なり、市外の業者に発注すれば簡単なことなのだが、何としても神戸で最後まで作り上げたい。その思いもあって発行がやや遅れたが、2月末になって創刊号がやっと誕生した。

 刷り上がった1万冊の創刊号を目にして、まずはそのボリュームに圧倒されました。壮観でした。4畳半一部屋あっても収まりきれない。地震でただでさえ空きスペースがないのに、どこへ置いておくものか困る。そして、これがみんな売りさばけるのか?いや、高くても(頒価500円)これは売らなければいけない。自立への道だから、趣味でもボランティアでもないのだから。
もしも、売れなかったとしても、これを配付するだけでも大変な作業になる。「本を創るのは簡単!問題はそれからだよ」という地元出版社のIさんの言葉を思い出した。

 実際、ここからイバラの道が始まるのですが、この創刊号をとにかく少しでも多くの本屋に置いていただくために、手分けして駆け回り始めた。一方では次の第二号の取材や編集に取りかからなくてはいけない。そして、会社をどうするのか?プライベート生活をどう整頓していくのか? などなど難題を山と抱えつつ、「売るしかない」と60リットルのザックに詰め込んで、バイクにまたがり本屋を巡る。100冊も詰め込めば、2泊3日の山行を思い起こす重さになる。だが肩の痛さより、配本時の交渉のもどかしさが辛い。
 自費出版本の持ち込みは、決済や管理が煩わしいので大体は断られる。しかし、内容が内容だけに、じっくり経緯を説明すると、そこそこの共感が芽生えて話がすすむ。大型書店でも「よし!やりましょう」と店長と合点するれば、快く預かってくれるところもあった。

大阪は外側・別世界だった

 ところが大阪は違った。有名K書店ではけんもほろろに断られた。「地震ジャーナル?」怪訝な顔つきを見て説明する気もなくなった。書店だけではなかった。大阪というもの自体が私たちを怪訝に見ていたようだ。大阪駅に下り立った時に、震災ルックにリュックを担いで立っている自分の周りの空気がまったく異質なことに戸惑った。「別世界に来てしまった。なんて空々しい処なのだ」ここは、私たちの中では既に消え去った空虚な都会そのものなのだろう。
それでもめげてはいられない。歩き回って、やっとA書店のSさんと出会うことができました「ごくろう様でした」と、人間らしい言葉に出会えホッと一息つきました。それもその筈、彼も尼崎で厳しい体験をされたとのこと。出版界と書店のこれからの有り様の貴重な考えもいただきました。(そのあたりの原稿も依頼いたしました)その頃すでに始まっていた書店の大型化が、小さな書店を淘汰し、街の文化的なあり方自体を変えていこうとしていることに大きな懸念を持たれていたのです。
実際、時代はそういう方向に加速し、一方ではネット書店の直販・再販が際立ち、下町の小さな本屋さんはすっかり姿を消してしまいました。

 第二号の発行までに、一般書店、テント村、大学生協など京阪神に33か所の販売拠点を確保することが出来ました。そして、号を重ねるにつれ、それは全国的に広がって最終的には90カ所になりました。広がることは有難いのですが、同時に、配本、回収、決済という作業の煩雑さに音を上げてしまうことになっていくのです。

【1995.2.2/震災17日目のメモ】

とにかく寒い朝。
○会社/
ぼちぼちと仕事の引き合いが。
コーヒーブレイクが多くなった。煙草が倍ほどに増えた。
激しい揺れ。(震度3だったが痛んだビルはよく揺れる。みんな飛び出す)
9時まで原稿を書く。

○実家/
水汲みの後、すき焼き弁当。
ワープロ打つ元気がない。
WよりFAX。資料と原稿をいただく。

【1995.2.3/震災18日目のメモ】

○会社/
カメラ、ロッカーなどを搬出。
向かいの避難所で福豆を配る。カイロ、下着なども。
後輩たちとオフィスで焼肉パーティーを。久々の新鮮なタンパク質。
ギターを弾く。懐かしのフォークソング大会で盛り上げる。

○自宅/
ラーメンとローソンのごはん。
テレビを見てしまう。
連れ合いに電話、帰神を要請する。

(続く)

十二支が巡り、亥がまたやってきました。しばらくはスローライフ自然薯や遊歩のブログは休憩して、震災関連の回想ブログになります。重い話で恐縮します。自然薯の植え付け頃には土臭い話に戻れると思います。震災直後から手元にあったノートに、走り書きのように書き留めていたメモがありました。このメモは、21日目後の2月6日に途絶えていました。はっきりとはその理由は覚えてはいませんが、その時点で「何かが終わった」のだろうと思います。〈前夜その1〉

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