●わが裏庭にもホタル舞う

表六甲山のホタル調査
上の画像は寄せ集めたイメージです。


 山口県はホタルに恵まれています。周南市の里地里山にもたくさんホタルの生息地があって、シーズンともなれば各所で「ホタル祭り」が開催されます。まあ極端に言えばどこの渓流にも川辺にもこの愛らしい生物は居るようです。拙宅の庭にもたくさん訪れてくれます。
 窓越しに可憐な輝きの軌跡を楽しむことなど、神戸で暮らしていた頃には考えもつかないことです。阪神大震災前の数年間、六甲遊歩会のメンバーが趣味を兼ねて、六甲山系の渓流の水質調査を行っていました。ホタルも水環境の一つの指標なので「この際、絶滅したと言われる天然のホタルがこの表六甲山(南面)にて生き残っているものか?」という興味も手伝って、数シーズンにわたってホタル調査を行いました。
(※なお、裏六甲の山麓には、まだ里山が広がっており、ホタルの生息地は各所に残っています。この調査の前年に、兵庫県自然保護協会のホタル調査で参加いたしました。まだまだホタルの群生を見ることができます)

 神戸という町は、切り立った山岳が、ある地点から急に都会(大概は住宅地)となります。中間となる緩衝帯が無いのです。この里地・里山的な中間点がないところが、六甲山系と向き合う時のポイントで、都市と山岳が直に向き合うという希少な関係は、他に余り類を見ないでしょう。布引渓谷をみればよく分かるでしょう。摩耶山系の多くの沢から集まった水流が、北側から回り込むようにゆったりと蛇行して、布引谷へと流れていきます。この長い渓流沿いの山道は、六甲でも有数の沢歩きが楽しめるルートとなっています。このコースのラスト部分が有名な布引滝の瀑布になっています。しかし、山の中という気分で自然を楽しむことができるのはここまでで、この滝の数十メートル先には新幹線・新神戸駅がこの渓流をまたぐように駅舎をかまえ、あの多様な姿を見せていた渓流も完全にコンクリートで整備された大きな用水路へとあっという間に変身してしまいます。
 途中に、田んぼや畑もなく、里山へと分かれていく水路もないので、水生生物の生息場所は失われてしまいます。このように都市部の河川はほぼ完全にコンクリで護岸されていますから、ホタル生息可能な場所は、山系の沢の入り口周辺に限られます。六甲山系の渓流の多くは基本的に急流で、ヘイケボタルヒメボタルの生息にはむいていませんが、砂防ダムで土砂が堆積して流れが緩む周辺でしたら、沢の上流にも生息地はあると考えられます。
 という訳で、4年間程、天然のホタルを探して、週末は夜間遊歩と称して山仲間を集め、時にはキャンプをしながら、ワイワイとホタル酒などを味わいつつ、平日は、仕事帰りに、そのまま六甲山の沢へ直行したり、5~7月はすっかり夜行性タヌキのような暗闇遊歩にハマっておりました。

 下水処理の水質の一つ指標として、神戸市の下水道局でホタルを試験育成している試験所があって、この事が話題となり、この養殖ホタルを活用して神戸の河川でのホタル復活を実現させようという活動が、盛んになった頃です。ホタルの生育環境を整えて後に、カワニナ(ホタルの幼虫の餌になる貝)と幼虫を放流すというような正攻法から、イベントの出し物で「ぱーっと」千匹近い成虫を川辺に放つというよな邪道まで、いろいろあったようです。こんな思いつきのイベントであっても(以前より環境が改善されていれば)稀にその環境で繁殖して、定着する可能性もあります。
 こういう事情もあって、ホタルを見つけ出すことと、苦労して発見したホタルが昔からの天然ホタルなのか、放流によるものなのかを見定めることも調査の一環となりました。どこまでを天然だと言えるのか? 人工繁殖したものなのか?・・なにやら虚しいアリバイ(不在証明)をしているようでした。元々は〝自分探し〟のために始めた六甲遊歩のようなものですから、これはこれで、天然のホタル(在るべきホタル)を探しつつ、その正体を見極める作業は、二重の焼き込みのようで、自分を掘り起こしていく上には、良いテーマだったと思っています。(調査の結果報告に関してはカテゴリー「遊歩資料アーカイブへ)

 夕刻、有馬温泉側から沢に入り、山越えをして、深夜の表側の沢を下って帰る。暗闇の中、ワイワイと複数で歩くのは楽しいものですが、これが一人になると途端に心細くなってしまいます。じめついた足元の不気味な沢で、蜘蛛の巣を払いながらの足取りは、怖さですくむこともあります。泉鏡花の「高野聖」のような気分です。四方八方に妖怪の気配を抱えて進んでいく訳ですから、どこかでドラマのような霊的な出来事が起きるのではないかとか、沢に転がり落ち下山できなくなるとか、戦々恐々です。それも、今となっては楽しい思い出となっていますが・・・。

★今まで眠らせている六甲遊歩の記録や資料類を、これを機にこのブログへ引っ越しさせようと思います。資料的には古くて価値も消耗しているものと思いますが、関心のある方は、カテゴリー「遊歩資料アーカイブ(11月に引っ越し)から訪れて下さいませ。

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